第89章

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    」「うん?」僕の引用に、不審そうに目を開いた神原。「なんだ、それは?」「別に……今から訪ねていく相手が、僕らを歓迎してくれるかどうか、ちょっと考えただけなんだけれど――」そして。そのまま、着替えもせず昼御飯も食べずに、僕は自転車で、神原は駆け足で、忍野メメと忍野忍が暮らす住宅街から外れた学習塾跡へと、向かったのだった。で――そして、ようやく現在。現在。その四階で、僕と神原は、忍野と向かい合っている。ことのあらましを聞き終えても、忍野は反応らしい反応を見せず、ただ、そんな高くもない天井に吊るされた蛍光灯(勿論電気がきた312試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中通っていないので、ただ吊るされているだけだ)を見上げるようにし、話の途中で口にくわえた、火のついていない煙草を、左右に揺らしながら――何も言わない。話せることは戦場ヶ原の話も含めて全部話したので、もうこちらとしては何も手札はないのだが……。なんとなく、気まずい空気。普段は舌から生まれてきたのではないかと思うくらい無駄によく喋る癖に、たまにこういう風に黙り込んでしまうのだから、忍野メメという男は本当に対処に困る……。陽気な性格に見えて、こいつ実はすげえ根暗な奴なのかもしれないと、こういうときには思う。「包帯」やがて――ようやく忍野は言った。「包帯、解いて、見せてくれるかな? お嬢ちゃん」「あ、うん――」ちらっと、助けを求めるように、僕を見る神原。僕は、神原を安心させるために、「大丈夫」と言う。それを聞いて、神原は、右手で、包帯を解きにかかった。するすると。すると――けだものの手が現れる。自ら袖をまくりあげ――神原は二の腕の部分までを晒す。けだものの腕と人間の腕の、つなぎ目を示すかのように肘を折り曲げて、一歩踏み出し、神原は忍野に、「これでいいのか」と言った。「……うん、いいよ。そっか。やっぱりね」「やっぱり? やっぱりって、何がやっぱりなんだよ、忍野。今日も今日とてわき目も振らずにわかりにくい態度を取りやがって――いつもいつもひっきりなしに思わせぶりなんだよ、お前は。全能感を演出するのって、そんなに楽しいもんでもないだろうに」「そうせっつくなよ、元気いいなあ。阿良々木くん、何かいいことでもあったのかい?」くわえていた煙草を、結局火もつけないままに吐き出して――いや、考えてみれば僕は忍野が、火のついた煙草をくわえているシーンを見たことがない――あのいつものにやにやとした、軽薄なお調子者の笑みを、僕に向けた。「阿良々木くん、それにお嬢ちゃん。最初に勘違いをただしておいてあげるとすると――それは、猿の手じゃないよ」「は?」いきなり、これまでの前提を覆すようなことを、忍野は言って――僕は驚いた。神原も、不意を突かれたような顔をしている。「猿の手は、ジェイコブズ以来、確かに色々派生しちゃってるんで、何が本当なのか実際はど313試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中ういうものなのかなんて、実物を見てみないことにはわからないんだけどさ――持ち主の腕と一体化しちゃうなんて例、僕は寡聞にして聞いたことがないよ。ツンデレちゃんが蟹でお嬢ちゃんが猿だったら、そりゃ、日本昔話っぽくて据わりはいいんだろうけれどもさ、でも、世の中そんなうまいことはいかないよね。お嬢ちゃん、自分で調べたんだろう? なかったろ?猿の手と持ち主とが一体化するお話なんて。もしもあったんだとしたら、無学な僕の知識不足ってことになるけれどさあ」「……調べたといっても、小学生の頃だから」「だろうね。でも、それなのにどうして猿の手だって思い込んじゃったのかな? お母さんは、きみに絶対にそんな風には、言っていないはずだけれど……まあ、そうだね、大方、条件が合致したからってところかな」「条件? なんだそれ?」「つまり二つのいわくって奴さ、阿良々木くん。いわくつきのアイテム、猿の手。いわく、猿の手は持ち主の願いを叶えてくれる。いわく、ただし、持ち主の意に添わぬ形で――だっけ?」ふふん、と嫌らしい笑みを浮かべる忍野。性格の悪そうな笑みだ。性格が悪いというか、性根が腐ってそうな感じ。「それが解釈として、お嬢ちゃんにとって都合がよかったんだよね――いや、気持ちがよかったというべきなのかな? まあ、そんなの、どっちでもいいんだけれど。確かなのは、それは猿の手なんかじゃないってことなのさ――元々は木乃伊だったんだっけ? それがお嬢ちゃんと同化することによって、生命を得た、か。となると――さしずめレイニー?デヴィルかな」「れいにー?」その単語に反応した僕に、続けての質問を許さず、そんな暇は与えずに、忍野は、「で」と、話を先へ先へと続ける。「阿良々木くん、『ファウスト』は読んでる?」「え?」「はいその反応、読んでない。ていうか存在自体を知らないみたいだね。もうちっとも驚かないよ、そのくらいじゃあ。僕は阿良々木くんのそういうリアクションには、慣れていくことに決めたんだ。それじゃあ、お嬢ちゃんは、どうなのかな? 『ファウスト』は読んでる?」「あ、えっと」突然水を向けられ、驚く神原だったが、しかしすぐに、脊髄反射のようにすぐに、「いや、不勉強で、まだ読んでない」と答えた。かぶん? ? ?せきずい314試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「勿論、知識として、物語の概要と粗筋くらいは知ってはいるけれど」「そうか。いや、概要と粗筋を知っていれば十分だよ。うんうん。普通はそうだよね、高校生ともなれば、それくらいは知っているもんだよね。あーあ、阿良々木くん、恥ずかしいねえ」「阿良々木先輩のことを馬鹿にするな! たまたま知らなかっただけに決まっているだろう!そもそも阿良々木先輩は読書などという既存の枠に納まる人ではないのだ!」忍野の言葉に突如逆上して、声を張り上げて忍野を怒鳴りつける神原だった。通常ではありえないだろうその反応に忍野がぽかんとし、説明を求めるように僕に目線を送ってくる。僕は、目を逸らすしかなかった。……神原。僕のために怒ってくれる気持ちは嬉しいが……、自分のために怒ってくれる誰かの存在がこうも心強いものだ<p style="font-weight: 400;color:#af888c;">(继续下一页)六六闪读 663d.com
    
    

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