第22章

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    こは、公園だった。浪白公園と、入り口にはあった。それが『なみしろ』と読むのか『ろうはく』と読むのか、あるいはもっと他の読み方をするものなのか、僕にはまるでわからない。何に由来するものなのかも、だから当然、わからない。勿論、そんなことがわからなかったからといって、どうということもない。何の問題も生じない。僕は確固たる目的があってその公園に来たわけではなく、ただ単に、でたらめに、気分気ままに足の向くままにマウンテンバイクで駆けていたら、その公園に行き着いてしまったという、あくまでそれだけのことなのだから。来訪と到着との違い。当人の僕以外には、同じことなのだろうけれど。自転車は入り口付近の駐輪場に停めた。駐輪場には、放置され過ぎ、雨風に晒され過ぎて、もう自転車なのだか錆の塊なのだかよくはちくじ まよいきょうじゅさび かたまり83試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中わからない物体が二台ほどあったくらいで、他には一台も、僕のマウンテンバイク以外は一台も、停められてはいなかった。こういうとき、アスファルトで舗装された道をマウンテンバイクで駆ける空しさを一層感じるものだが、何、そんなものは、たとえこういうときでなくとも、いつだって感じている空しさだった。結構広い公園だった。といっても、それは単純に、遊具が少ないせいでそう感じるだけなのだろう。広く見えているだけなのだ。端っこの方にブランコと、猫の額ほどの砂場があるだけで、他には、シーソーもなければジャングルジムもない、滑り台すらない。高校三年生の僕としては、公園というその場所は、本来もっと郷愁を誘われるべき座標なのかもしれなかったが、むしろそれとはまるっきり逆の感情を、僕は、胸に抱かないでもなかった。それとも、何だろう、ああいうことだろうか。公園遊具の危険性、子供の安全を考えての結果、みたいな話で、昔は色々と設置されてあった遊具が、撤去されてしまっての、その形だったのだろうか。もしそうだったとしても、僕の感想自体は変わらないけれど、それに、そうならば何より危ないのは間違いなくブランコだと個人的には思うけれど、でも、まあ、そういうこととは関係なく、今、自分が五体満足でいる奇跡とかを、痛感しなくもなかった。子供の頃は色んな無茶をしていたなあ、と。ノスタルジィとは違う感覚で、そう思った。もっとも。五月十四日の僕は、その一ヵ月半くらい前の段階で、既に五体満足と言えるような身体ではなくなってしまってはいたのだけれど――まだ心に根付いている感傷の方は、どうやらそちら、その現実に追いついてはいなかったということだ。正直言って、それは数ヵ月程度で整理のつくことではない。一生かかっても無理かもしれなかった。しかし、と、思った。いくら遊具がないからといっても、それでも、あまりに寂しい公園だった。何せ、僕以外、一人も、誰もいないのだ。今日は天下の日曜日だというのに、である。遊具がない分、気持ち広くなっているのだから、ゴムボールとプラスチックのバットで、野球でもやればいいのに、と思う。それとも、最近の小学生の間では、もう遊びといえば野球、それに次いでサッカー、みたいな習慣は、なくなってしまったのだろうか。最近の小学生は家でビデオゲームばっかりやっているのだろうか――それとも塾通いが忙しい? あるいは、このあたりの子供は、一日かけて母の日を祝う、孝行者ばかりなのだろうか。それにしたって、日曜日の公園に、僕しかいないだなんて、まるで世界に僕一人しかいないみたいじゃないか――というのはいくらなんでも大袈裟だとしても、まるで、この公園の所有ひたいいそがおおげさ84試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中権が、僕にあるかのようだった。もう二度と、家には帰らなくていいみたいな、そんな気分になった。僕だけ、一人だけだから……ん。いや、一人、いた。僕だけではなかった。僕の座っているベンチから、広場を挟んで反対側、公園の隅っこの方、鉄製の看板、案内図――この辺りの住宅地図を眺めている、小学生が一人。背中を向けているので、どんな子かはわからない。大きなリュックサックを背負っているのが印象的だった。一瞬、仲間を見つけたような気になって、僕の心はかすかに緩んだが、しかし、その小学生は、その案内図にしばらく向き合った後、何かを思いついたように、公園から去っていった。そして僕だけになった。また一人か。そんなことを思った。――兄ちゃんは。そこでふと――妹の言葉が思い出された。マウンテンバイクで家を飛び出るときに、僕の背中に、無造作に投げ掛けられた言葉。――兄ちゃんは、そんなことだから――ああ。畜生、と、僕は、さっきまで取っていた空を見上げる姿勢から、今度は地面を一直線に見詰めるような、頭を抱える姿勢を、取ることになった。暗い気分が、あたかも波打ち際のように、押し寄せてくる。空を見て、大分落ち着いてはいたのに、今更のように、自分の卑小さが嫌になる。自己嫌悪とはこういう感情を言うのだろう――普段僕は、あまりそういうことで悩むタイプではないのだが、むしろ悩みなんて言葉にはとんと縁がないのが僕なのだが、ごくたまに、そう、五月十四日のような、そういうイベントじみた日には、何故か大抵、そういうコンディションになってしまう。特別な状況、特殊な設定。そういうものに、僕は酷く脆い。落ち着きを失ってしまう。浮き足だってしまうのだ。ああ、平日最高。早く明日になってくれ。そんな微妙なコンディションから――蝸牛にまつわるそのエピソードは、始まったのだった。裏を返せば、僕がそんなコンディションでさえなければ、それはあるいは、始まりさえしなかったエピソードだったのだろう。002ちくしょうひしょうもろかたつむり85試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「あらあら、これはこれは。公園のベンチの上に犬の死体が捨てられていると思ったら、なんだ、阿良々木くんじゃないの」人類史上恐らくは初めての試みになるであろう奇抜な挨拶が聞こえた気がして、地面から顔をあげると、そこにいたのはクラスメイトの戦場ヶ原ひたぎだった。当たり前だが、日曜日なので、私服だった。いきなりの犬の死体呼ばわりに何か言い返して<p style="font-weight: 400;color:#af888c;">(继续下一页)六六闪读 663d.com
    
    

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