第12章

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    かの所為でそうなったわけじゃない――ちょっと視点が変わっただけだ」最初から、そうだった。それは――それじゃあ、匙を投げた医者と、言っていることがほとんど、変わらない。「視点が? 何が――言いたいんですか?」「被害者面が気に食わねえっつってんだよ、お嬢ちゃん」唐突に、辛辣な言葉を、忍野は放った。僕のときと同じように。或いは、羽川のときと同じように。戦場ヶ原のリアクションが気になったが――しかし、戦場ヶ原は、何も、返さなかった。甘んじて受けたようにも思えた。そんな戦場ヶ原を、忍野は、「へえ」と、感心したように見た。「なかなかどうして。てっきり、ただの我儘なお嬢ちゃんかと思ったけど」「どうして――そう思ったんですか」「おもし蟹に遭うような人間は、大抵そうだからだよ。遭おうと思って遭えるもんじゃないし、通常、障るような神でもない。吸血鬼とは違う」障らない?? ? ? ? ? ? ? ? ?ぜんしゅげんどう? ? ? ?さじづらとうとつ しんらつわがまま? ?43試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中障らないし――襲うこともない?「憑くのとも違う。ただ、そこにいるだけだ。お嬢ちゃんが何かを望まない限り――実現はしないんだ。いや、もっとも、そこまで事情に深入りするつもりはないけれどね。僕はお嬢ちゃんを助けたいわけじゃないんだから」「…………」勝手に助かる――だけ。忍野はいつも、そういうのだった。「こんなのは知っているかな? お嬢ちゃん。海外の昔話なんだけどね。あるところに、一人の若者がいたんだ。善良な若者さ。ある日、若者は、町で不思議な老人と出会う。老人は若者に、影を売ってくれるように頼むんだ」「影を?」「そう。お日様に照らされて、足元から生じる、この影だ。金貨十枚で売ってくれ、とね。若者は、躊躇無く、売った。金貨十枚で」「……それで?」「お嬢ちゃんならどうする?」「別に――その状況になってみないと、わかりません。売るかもしれないし、売らないかもしれない。そんなの、値段次第ですし」「正しい答だね。たとえば、命とお金とどっちが大切なんだって質問があったりするけれど、これは質問自体がおかしいよ。お金と一口に言っても、一円と一兆円じゃ、価値が違うんだし、命の価値だって、個々人によって平等じゃない。命は平等だなんて、それは僕が最も憎む、低俗な言葉だよ。まあ、それはともかく――その若者は、自分の影なんてのは、金貨十枚の価値よりも大事だとは、とても思えなかったんだ。だってそうだろう? 影なんかなくても、実質、何も困りやしないんだから。不自由はどこにも生じない」忍野は身振りを加えながら、話を続けた。「しかし、その結果、どうなったか。若者は、住んでいた街の住人や家族から、迫害を受けてしまうんだ。周囲と不調和を起こすことになる。影がないなんて不気味だ――と言われてね。そりゃそうだよ。不気味だもん。不気味な影という言葉もあるけれど、影がない方がよっぽど不気味さ。当たり前のものがないなんて――ね。つまり、若者は、当たり前を金貨十枚で、売ったってことなのさ」「…………」「若者は、影を返してもらおうと老人を探したけれど、いくら探しても、どんなに探しても、その不思議な老人を、見つけることはできませんでした――とさ。ちゃんちゃん」? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?? ? ? ?44試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「それが――」戦場ヶ原は。表情を変えずに、忍野に応えた。「それが一体、どうしたっていうのですか」「ううん、別にどうもしないよ。ただ、どうだろう、お嬢ちゃんには身につまされる話なんじゃないかと思ってね。影を売った若者と重みを失ったお嬢ちゃん、だから」「私は――売ったわけじゃありません」「そう。売ったわけじゃない。物々交換だ。体重を無くすことは、影を無くすことよりは、不便かもしれないけれど――それでも、周囲との不調和ということなら、同じだしね。でも――それだけなのかな」「どういう意味です?」「それだけなのかなという意味だ」忍野はこの話はこれでおしまい、と言った風に、胸の前で両手を打った。「いいよ。わかった。体重を取り戻したいというのなら、力になるさ。阿良々木くんの紹介だしね」「……助けて――くれるんですか」「助けない。力は貸すけど」そうだね、と左手首の腕時計を確認する忍野。「まだ日も出ているし、一旦家に帰りなさい。それで、身体を冷水で清めて、清潔な服に着替えてきてくれる? こっちはこっちで準備しておくからさ。阿良々木くんの同級生ってことは、真面目なあの学校の生徒ってことなんだろうけれど、お嬢ちゃん、夜中に家、出てこられる?」「平気です。それくらい」「じゃ、夜中の零時ごろ、もういっぺんここに集合ってことで、いいかな」「いいですけれど――清潔な服って?」「新品じゃなくてもいいけど。制服ってのは、ちょっとまずいね。毎日着ているものだろう」「……お礼は?」「は?」「とぼけないでください。ボランティアで助けてくれるというわけではないんでしょう?」「ん。んん」忍野はそこで、僕を見る。まるで僕を値踏みしているようだった。いったんれい45試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中試用中「ま、その方がお嬢ちゃんの気が楽だっていうなら、貰っておくことにしようか。じゃ、そうだね、十万円で」「……十万円」その金額を、戦場ヶ原は反復した。「十万円――ですか」「一ヵ月二ヵ月、ファーストフードでバイトすれば手に入る額でしょ。妥当だと思うけれど」「……僕のときとは随分対応が違うな」「そうだっけ? 委員長ちゃんのときも、確か十万円だったと思うけれど」「僕のときは五百万円だったって言ってんだよ!」「吸血鬼だもん。仕方ないよ」「何でもかんでも安易に吸血鬼のせいにするな! 僕はそういう流行任せの風潮が大嫌い<p style="font-weight: 400;color:#af888c;">(继续下一页)六六闪读 663d.com
    
    

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